2012年4月20日金曜日

『舟を編む』三浦しをん


光文社2011.9
 今年度の本屋大賞を受賞した一巻。『大渡海』という中型の国語辞典を作り上げるまでの、地味だけれども熱い物語です。次のような会話は、記憶にとどめたいと思います。

■初代編集者(荒木)「ひとは辞書という舟に乗り、暗い海面に浮かびあがる小さな光を集める。もっともふさわしい言葉で、正確に思いをだれかに届けるために。もし辞書がなかったら、俺たちは茫漠とした大海原をまえにたたずむほかないだろう」

■監修者(松本先生)「言葉は、言葉を生みだす心は、権威や権力とはまったく無縁な、自由なものなのです。また、そうであらねばならない。自由な航海をするすべてのひとのために編まれた舟。『大渡海』がそういう辞書になるよう、ひきつづき気を引き締めてやっていきましょう。」

■二代編集者(馬締(まじめ)主人公)「そういえば、西岡さんにも言われたことがあります。『その言葉を辞書で引いたひとが、心強く感じるかどうかを想像してみろ』と。自分は同性を愛する人間なのかもしれない、と思った若者が、『大渡海』で『あい【愛】』を引く。そのときに『異性を慕う気持ち』と書いてあったら、どう感じるか。そういう事態を、俺はちゃんと想像できていなかったんですね」

 そして、ファッション雑誌の編集から遅れて辞書編集部に入った岸辺という女性は、次のように鮮やかに描写されています。
■〈辞書づくりに取り組み、言葉と本気で向きあうようになって、私は少し変わった気がする。岸辺はそう思った。言葉の持つ力。傷つけるためではなく、だれかを守り、だれかに伝え、だれかとつながりあうための力に自覚的になってから、自分の心を探り、周囲のひとの気持ちや考えを注意深く汲み取ろうとするようになった。岸辺は『大渡海』編纂を通し、言葉という新しい武器を、真実の意味で手に入れようとしているところだった。〉

0 件のコメント:

コメントを投稿